投資家対談(鎌倉投信・鎌田社長)

インタビュー

左より
鎌倉投信株式会社 代表取締役社長 鎌田 恭幸氏
株式会社ホープ  代表取締役社長兼CEO 時津孝康
(2019年9月11日実施)

 

 

今回、投資家対談第2弾として「“2101年”に向けて、人と人、世代と世代を“結ぶ”豊かな社会を創造したい」という想いのもと、「いい会社」に投資する投資信託の運営・販売を行っており、数多くの会社を訪問している鎌倉投信代表取締役社長の鎌田恭幸氏をお招きし、当社へ投資いただいた理由や今後期待することなどについてお話をお伺いいたしました。

 

時津:お忙しいところお時間いただきありがとうございます。本日は、よろしくお願いいたします。早速ですが、2018年6月期の営業利益が赤字のタイミングでご縁があったと記憶しておりますが、なぜ苦しかったその時期に投資をしてくださったのでしょうか。

 

鎌田:実は、2017年9月から投資させていただいており、確かにその時期は御社の業績や株価を見ると低迷時期ではありました。しかし、鎌倉投信の運用方針は、会社の株価・財務状況はもちろん確認しておりますが、「社会における存在価値」「会社の取組みそのものに社会的意義があるか」が投資の一番の着眼点で、経営の持続性の尺度として観る業績等はその次の判断要素になりますので、投資開始時期の業績は、さほど重要ではないのです。

 

時津:社会における存在価値ですか。当社のどのような部分に存在価値を感じ投資をしてくださったのでしょうか。

 

鎌田:まず、御社が何を目指して何をしようとしているのかを分析しました。「自治体を通じて人々に新たな価値を提供し、会社及び従業員の成長を追求する」という企業理念はまさに社会課題を解決する会社だなと思いました。行政に対して直接向き合って、行政が抱える課題を解決しようとしている会社は他になかったので、社会に必要とされる会社であり、その突破力を持っている会社だと判断し投資させていただきました。

財務、特に株価はあくまでその時点の取引値段(換金価値)にしかすぎないので、そこに対して鎌倉投信はあまり重きをおくことはありません。財務等は経営の持続性を判断する要素として観ていきますが、御社はまだベンチャー気質の強い会社なので、赤字であっても当然だろうと思いますし、ここから何を目指していくのか、社長を中心として役職員が力を合わせて、それをやりきるかどうかという点を見ていました。

 


 

時津:「いい会社」の条件の1つである「共生」というテーマで当社を評価していただいておりますが、改めて約2年当社をご覧になった率直なご感想をお願いします。

 

鎌田:「共生」というテーマで投資したのは、自治体を元気にする「財源確保」という視点で色々なアイディアを提供し、地域に貢献する共生型の会社であるというのが理由になります。私も約2年お付き合いさせていただいていますが、今も変わらず「自治体を通じて人々に新たな価値を提供する」という部分にブレがないと思います。経営が苦しくなると、とりあえず利益を出すことを優先して違う方向に向かう会社もあると思うのですが、「自治体を通じて」という部分には一貫してブレがないので、そういう面での信頼感とそこに対する社長の想いに揺らぎがないので安心感を持っています。

時津:私は「広告代理店になりたいわけではない」ということを一貫して鎌田社長にもお伝えしていたと思うのですが、「自治体に特化したサービス会社になりたい」という想いで上場し、そして新規事業の種を蒔き続けました。一瞬で頓挫した事業や、投資したけどダメになった、芽吹かなかったなどありますが、その中でもメディア事業とエネルギー事業はなんとかギリギリ芽吹くところまできて、新たなサービスを行政へ提供するまでに至りました。

 

鎌田:今までの蓄積が土の中でゆっくりゆっくり根を張ったからこそ、今年の結果に繋がった、よくそこは踏ん張ったなと思います。

ただ、経営全体として考えた時にすごく苦悩しているのだろうな、会社組織として色んな悩みがあるだろうなと思っていました。先ほど、色々な事業の種を蒔いたという話がありましたが、どの種がどのタイミングでどういう様に芽吹くかというのはなかなか計算できないと思います。計算できない中でも挑戦し、社員の気持ちをまとめていく、数字がなかなか上がらないと自信もでてこないでしょうし、これでいいのかという議論も当然社内でもあるなかで、それでも守り続けるものと苦渋の決断で撤退するなどの決断をし、その過程の中で生じるハレーション(悪影響)とその修正・再統合、などのプロセスがこれからの発展に向けて必要な2年だったのではないかと思います。

今期の業績について特に電力事業が伸びてきたというのは、これからではありますが、この2年の中で諦めずに種を蒔いてきた、まさにその実績ですよね。目に見えないところで相当頑張ってきたのだろうなと思います。

時津:新しい事業を作る、事業創造の壁は経営していく中では、組織改革と同じくらい難しいと思いました。2期前の予算策定時、新規事業に投資をせずに人的資源等を既存事業だけに全部投下した場合には、赤字ではなく利益を出すことができると思っていたので、正直揺らぎはありました。しかし、上場して私が引っ張ってきたこの仲間と創りたい世界とやっていることのギャップを感じて何か違うなと思いました。そうは言っても、株を保有しているステークホルダーの方々もいて、利益を出していくことの重要性もわかっていたので、そこに対する慣れていないプレッシャーにどう対応していけばいいのかわからないという苦悩はありました。

 

鎌田:私も、色々な会社とご縁があってお付き合いしているのですが、「いい会社でありたい」という想いだけではいい会社には絶対なれないと思います。ある種の強さが必要で、その強さにもポイントがあって、一つは事業のバランスになります。当然ながら成熟を迎える時期は必ずくるので、事業ポートフォリオを分散させないといけないし、その延長線上で商品のライフサイクルに対してイノベーションを起こして、面の分散と時間軸の分散が必ず必要になってくるのですが、特に御社や若い会社はまだそれができていない時期なので、伸ばしながら次の種を蒔くことになると思います。でも一方で上場していたら数字のプレッシャーもあるし、経営管理やガバナンスなどの話も出てくるもので、多面的にやるという辛さがここ数年はあったのではないかなと思います。一つ強い事業の柱ができることによって、解決するテーマが増えてくると思います。そういう意味でこの2年をまとめると、もがき苦しむ中で大きな芽が出てきたというそんな印象です。

 


 

時津:一度「いい会社」として投資対象とした企業の株を売る時や買い増す時はどのような方針でされるのでしょうか?

 

鎌田:鎌倉投信は、「投資は、『まごころ』であり 金融は、『まごころ』の循環である」を投資哲学としています。いい会社をしっかり応援していこうという投資姿勢になります。株の売買という観点でどのような投資行動になるかというと、基本的にはいい会社がいい会社であり続ける限り、持ち続けるというスタンスです。

保有株式を売却するのは、例えば、会社の経営姿勢が変わった時、理念と違うことをやり始めたなど、当初の鎌倉投信の投資判断とズレてくるとやむを得ず全売却をしています。

なお、株価は当然動くので、リスク管理の観点から残高調整のリバランスを行うための売買は実施します。具体的に言うと一定の金額を保有する中で、株価が上昇し、目標値を超えた時には、超えた部分を売却し、目標値に達していない投資先については足りない部分を追加購入するという調整を行っています。

時津:各社に定めている目標値が変わることはあるのでしょうか。

 

鎌田: 各社ごとに定めてはいません。今ですと67社に投資しているのですが、投資先企業の規模や時価総額の大小で投資比率を決めるのではなく、各社同じ金額を投資することを原則としていて、ファンドの有価証券の組入金額(現時点では約300億円)を均等に配分するのが基本スタンスです。いい会社は等しくいい会社だという考えに基づくものです。ただし、会社の発行済株式数に応じて大株主にならない5%未満でかつ目標構成比に達するまでこのようなやり方を実施しています。一回投資をしたら会社の方針が変わらない限り、持ち続ける、そこが鎌倉投信の運用の一番のポイントです。

 

時津:その大方針は結構珍しいスタイルですね。

 

鎌田:鎌倉投信の投資スタイルが長期投資である、といわれる所以ですが、そもそも「投資は長期で取組むもの」ですので、「長期投資」という言葉自体に少し違和感を持っています。いずれにしても、一度投資をしたら会社の経営姿勢が変わらなければ持ち続けると言い切っているところは他の運用会社にないと思います。

 

時津:過去に全売却したケースなどはあるのですか。

 

鎌田:全売却するケースというのはゼロではないですね。売却判断をする理由は主に2つあります。

1つ目は、会社の姿勢にブレが出てきた時です。数字がついてこなくなり、一番大事にしてきたものからブレてきた時には売却を検討します。

2つ目は、経営管理の甘さがある時です。経営管理というのは色んな意味があると思うのですが、ここでは事業戦略を実現し発展させる組織・チームづくりという意味合いです。会社の経営は組織の面から言うと、人を成長させつつ、それをいかに統合、束ねていくかというのが要諦だと思っているのですが、それができない組織があるんですよね。例えば、社長はよいけど経営のもう一つの要でもあるCFO(財務執行責任者)の資質が欠けていたり、マネジメントチーム内での関係が上手くいっていないなど、そのひずみなどが出てくると、やろうとしていることが実践できません。創業して中小企業からそれなりの企業になって、そこからさらに発展するという段階で、どうしても通らないといけない過程で経営管理が弱いと次の段階に進むことができなくなります。結果的に、事業運営にも影響をしてくる部分ですので、最近は、そうした点も意識して観るようにしています。

 

時津:私を含めた経営陣も、過去の栄光にすがるというのはカッコ悪いことだと思っていて、いかに変化していけるかが大事だと思っています。業績が苦しい時には、やることも明確ですが、業績が回復してきた時にはまた次の能力や期待値も変わってくるので、常に変化できることが必要だと思います。

 

鎌田:イノベーション、新しい価値創造、事業創造を生むのは人であり、組織なので、そこに対する箍(たが)が緩んでくるとやっぱり業績が傾いてきますよね。大体会社が倒産するときは外部環境の変化ではなく、内部の慢心や油断からくるものがほとんどです。だからこそ、今回のように業績が大きく上向く時期はすごく気を付けなければいけません。

 

時津:これからだと思っていますので、身を引き締めます。

 


 

時津:おかげさまで、当社の株価は最安値から約5倍になりました。(2019年9月11日時点)

これで終わりではなく始まりであると肝に銘じておりますが、業績・時価総額が上がる企業の共通点は何かあるのでしょうか?

 

鎌田:先ほど話したことと被ってしまう部分もありますが、総合的にいえば経営管理能力が高いことだと思います。そもそも株価が短期間で5倍になるような経営をやってはいけないですし、本来であれば、当社のような株主は、むしろそういう経営者を叱るべきなのです。

ただ、今回御社の場合は、ほんとに苦しい中で地道に人や行政との信頼関係づくりをやってきて、一貫性を持ってその中で種を蒔いて成長してきた過程を、鎌倉投信なりにずっと観てきた中で判断すると、これはよい成長だと思います。今回は大歓迎ですが、ここから同じような現象が何度も起きることはまずないし、株価が5倍になったら株価だけを見て離れていく短期の投資家も増えるので、継続して時価総額や業績を上げていく会社になってほしいです。
株価は基本的に業績に連動するので、業績を安定的に上げていくことになるのですが、そういう企業の共通点はいくつかあって、まずは経営理念を明確に意識しているということは絶対です。それは、自分たちは何を大事にして社会にどういう価値を提供しているのか、株価、財務的価値以前に社会における存在価値を大事にしているかということです。

その中において大事なのはやはり「人」です。会社の経営理念を通じて、まさに社員の成長を追求するということを体現している会社であることが業績の伸びている企業の共通点になりますね。そして当然ながら一人一人がバラバラだといけないので、それからシナジーが生まれる関係性をどうつくるか、これがよりよい組織をつくるということを経営目的としているかどうかだと思います。

いずれにしても利益と社会性のバランスをとろうとしている会社でないと永く繁栄することはないと思います。

 

時津:当社は前期、会社を作って初めて人をほぼ採用しないということを実施しました。これはすごく極端な方法かと思うのですが、前々期は中途社員57名と新卒社員27名と90名近く採用しました。そして今期は、今あるリソースの中で出来る最大限のことをやってみようと思い、方針を変えました。今期は当社の最大の現有資産である「人」で最大のパフォーマンスを出すことを前面に打ち出していますが、今これだけ夢や想いを持って当社に入ってきてくれた社員がいて、彼らがやりたいことをやれる、能力や成長機会を徹底的に提供する1年2年があってもいいのではないかと考えています。企業理念の「会社及び従業員の成長を追求する」という部分にフォーカスをした時に、人力で解決するタイミングではないという風に考え、今期は成長機会を提供し社員の成長を促すことを実践していきます。

 


 

時津:色々な経営者に会われていると思うのですが、鎌田社長から見た私はどのような経営者のタイプだと思いますか?

 

鎌田:一番感じたのは、すごく色々な人に守られている経営者という印象です。

それはご家族も含めてです。とても想いが純粋なので、色々な人が応援したがる経営者なのだと思いますね。人間として濁りがない、そういう印象を持ちます。逆にいうと、突っ走りすぎるようなところは、誰かが抑えなきゃいけない部分なので、やはりマネジメントチームが大事になってくると思います。

 

時津:最後に、当社に何を期待していただいておりますか?

 

鎌田:鎌倉投信は御社の経営理念の実現を応援したいと思っているので、そこにブレのない経営をしていただきたいと思っています。

自治体を通じてということももちろんですが、事業を通じて御社自身が成長しなくてはならないし、社員の方々、一人一人の人間的成長が大事だと思います。いい会社の定義は色々ありますが、社員の人間としての成長機会を提供できる会社がやっぱりいい会社だと思っています。

社会課題の解決という意味でいうと、自治体の財源確保をする、さらに本質的にいうと自治体そのものに変革を促すことが究極の御社の姿だと思っています。

自治体職員の心に火をつけて、自治体自身が変わり、御社の存在価値がなくなるぐらいになっていくと、大きな目的は達成すると思います。

 

時津:企業理念実現のためにも成長を追求し続け、精進していきたいと思います。本日はお忙しいところありがとうございました。

 

 

今回は番外編として、対談に同席された鎌倉投信株式会社 資産運用部 古川周平氏からいただいた時津への質問も紹介いたします。

古川: 自治体ビジネスに注目することは面白いと思っているのですが、なぜ自治体に注目したのでしょうか。

 

時津:もともと家族や親族が商売を営んでいて、小さいころから父が働く姿をみてとても尊敬しており、将来を考えた時に、私も何か商売をしたいなと自然に思っていました。あとこの世に生まれてきたからには何か意味があると思っていて、私にしかできないことは何かと考えた時に、最終的に辿りついたのが自治体ビジネスを通して人々に新たな価値を提供したいということでした。お金もないし、能力があるわけでもないので、マーケットだけは慎重に選ばないと、すぐつぶれるなと思ったのでどこのマーケットで展開するかはかなり考えました。ITやアジア関連のビジネス、自治体ビジネスなど様々なマーケットを検討しましたが、最終的には絶対的に変化が必要だと感じた自治体でビジネスをすると決めました。

 

古川:もう一つ、広告事業だけではなくエネルギー事業も大きく伸びていく中で、広告事業に属している既存社員から様々な声が出たりするかと思うのですが、それに対する社長のお考えをお聞かせいただけないでしょうか。

 

時津:それは私が今一番気にしている経営課題のひとつです。エネルギー事業は、給与体系も働き方も全く変えているので、これを一つのホープという船の中でバランスをとることができるのは私しかできないと思っています。

文化的に異なるものを融合させる、バランスを取るということに気を使っていますが、一方で昔のことを踏襲していけばいくほど、変化が起きにくい面白くない会社になってしまうとも思っています。

エネルギー事業に関しては、正直別会社のように組み立て、旗をたてています。同じ船ではありますが、実験的に面白いことをやってみようとしている事業部であり、伸びてきているという位置付けに意図的にしていましたし、時間はかかりました。事業開発の波にきれいに乗っているというのは、創業以来初めてで、これにより昔からいる社員が腐らないように、評価されていないと思われないような配慮・気配りは結構していますね。でもそれは、経営者である私がやるべき大きな仕事だと思っているので、エネルギー事業にはあぐらをかかせない、慢心させないように、一方、広告事業で働いている社員には創業事業があったからこそ、新しい事業が生まれた感謝を伝えています。また、管理会計を明確に導入しているので、事業部ごとに作った営業利益はこれぐらいだから、これだけ営業利益がでないと給料は上がらないよねということを言えるようになってきたので、事実は事実としていえる範囲で広告事業にはしっかり直視させる、この事業のなかで営業利益をどう上げていくかということを切磋琢磨してやってもらうということをやっていますね。ご質問いただきまして、ありがとうございました。

 

鎌倉投信株式会社
代表取締役社長 鎌田 恭幸氏
1965年島根県生まれ。日系・外資系信託銀行を通じて30年にわたり資産運用業務に携わる。株式等の運用、運用商品の企画、年金等の機関投資家営業等を経て、外資系信託銀行の代表取締役副社長を務める。2008年11月に鎌倉投信株式会社を創業。著書に「日本で一番投資したい会社」「21世紀をつくる人を幸せにする会社」(共著)がある。

 

鎌倉投信株式会社
資産運用部 ファンドマネジャー 古川 周平氏
2007年日系大手資産運用会社に入社。2009年より計量的運用手法に携わり、主に株式アクティブファンドの運用を担当、2016年より同社ニューヨーク拠点にて投資分析業務に従事。2019年7月鎌倉投信に入社。鎌倉生まれ、鎌倉育ち。