【対談】自治体職員の仕事とキャリア ~前編~

インタビュー

左より
株式会社ホープ メディア事業部 部長 種子田宗希(元宮崎県小林市役所職員)
株式会社ホープ 代表取締役社長兼CEO 時津孝康
福岡市 経済観光文化局 経営支援課長 山下龍二郎氏
合資会社ふれあい代表社員 吉田翔平氏(元株式会社ホープ社員/元福岡県桂川町役場職員)

―今回は、「自治体職員の仕事」について現役の福岡市役所職員の山下さん、6年半の自治体職員の経験後、ホープを経て現在はご自身で会社を経営している吉田さん、そして元自治体職員で現在メディア事業部長の種子田、当社代表の時津の4人の対談形式でお伝えしていきます。

 

時津:皆様、本日はお忙しいところお集まりいただきありがとうございます。
今回の目的ですが、当社は自治体向けにビジネスを展開していますので、自治体職員の方々の日々の仕事のことを今一度学ぶ機会にできればと思っております。また職員個人のキャリアを考えたときに、参考になる話も飛び出すのかなと思います。
その中で、等身大のホープにも関心を持ってもらえるといいなと思っています。よろしくお願いします。

―公務員を目指したきっかけは?


山下:私は福岡出身で、新卒でメーカーに入社しました。そこで、商品・サービスを生み出す、購入いただく・使っていただく喜びを経験しました。
ちょうど30歳を過ぎたころ仕事もひと通り経験し、ステップアップしたいと思っていた時に、ちょうど社会人経験者を採用しはじめていた福岡市役所に転職しました。
福岡市職員に転職した理由ですが、出身である福岡はお盆・正月に帰ってくるたびに街が成長し、街の顔が変わっているんですね。そういう姿をみて、だったらその中でその成長に携わりたいと思ったのがきっかけです。「どうせ祭りなら自分も踊ったほうが楽しいじゃないか」という気持ちで。福岡市という成長著しい都市のまちづくりに関わることに魅力を感じたんです。福岡市では、社会人経験者の採用枠があって、その枠に応募しました。

時津いきなりですけど、ちなみにお給料ってどうなりましたか?

山下:年収は大体前職の7~8割くらいだったように思います。給与体系はどこの自治体も似ていると思いますが、福岡市でも、役職によって給与が変わるのはもちろん、同じ役職の中でも昇級の階段があります。私の場合は、自分がどこに該当するかよく分からず、入ってみて初めて分かったというのが実態でしょうか。

時津:ありがとうございます。吉田さんのきっかけは?


吉田:私の場合は、大学を出た後に介護の仕事をしていたのですが、社会人としてのいろんな経験が足りないことが課題だな、と感じていました。公務員だったら、子育て、高齢者、建築、水道、と色んな分野の業務を経験できるし、3~5年ほどで異動がある仕事と聞いていたので、いろんな経験ができるはず、ということで役所の仕事に興味を持ったんです。
自治体職員の仕事に興味があったというより、個人的な成長機会を求めて公務員になった、という感じです。

時津:なるほど。ちなみに給与はいくらからスタートしたんですか?中途扱いになるのですか?

吉田:いえ、私は社会人経験も短かったので、一般職員枠としての扱いになりました。
年齢や職歴の考慮もあり、給与は月18万円ぐらい。だいたい年収300万円ぐらいで、他に手当と言えば残業手当ぐらいです。

時津:種子田は?

 

種子田:僕の場合は消去法なのですが、18歳で宮崎県の小林市役所に入ったんです。
実家が鉄工所だったので、工業高校に入って就職するという方向だったんですが、高校生活で僕は工業に向いてないと思いました。それで就職で工業以外となると、公務員しかなかったんです。

時津:試験はやっぱり難しかった?

種子田:競争率40~50倍はあったと思います。工業高校から公務員に受かったということで表彰されました。普通科じゃなかったし珍しかったので。

時津:公務員だというと地元でモテるの?

種子田:モテますね(笑)。私は別として周りの先輩方はモテていました(笑)

時津:ちなみに初任給はどれくらいだった?

種子田:高卒なので、確か月15万円くらいで始まりました。

―実際に印象的だった、やりがいあったな、挑戦したなというお仕事について教えてください。

山下:公務員は3~4年くらいで異動します。私自身も、交通局で地下鉄、環境局で温暖化対策、広報戦略室で福岡City WIFIの企画など、いろんなことが経験できました。その後、現在の経済観光文化局に異動し、企業誘致を担当した後、今は中小企業支援をしています。
本当にバラバラですけど、いろんなことができるのでとても新鮮です。
今年は本当にコロナ一色です。コロナ禍で多大な影響を受けている市内企業に対し、融資制度や雇用などの支援をスピード感持って取り組んでいます。たとえば融資相談件数は対前年5倍以上に急増しており非常に大変ですが、事業者さんの資金繰りを少しでもご支援できるようスタッフで一丸となって対応しています。

時津:いつも思うんですけど、公務員の方々は本当に究極の黒子として働いてらっしゃいますよね。福岡City WIFIとかも、あって当たり前じゃんと思うことに対して、裏方ではいろんな努力を重ねて実現してくれている公務員の方々がいるってことですよね。
では、吉田さんは?

吉田:私は自治体職員生活7年中6年が広報担当でした。住民向けの町の広報紙作成がメイン業務で、担当が私一人しかいなかったので、企画、取材、写真撮影、執筆、編集、校正と、すべての業務を自分で行う必要がありました。当時、福岡県内の市町村のうち1/3ぐらいは、広報紙作成を外部委託していたのですが、自分がいた町役場ではまだ自前で作成していました。
1、2年目は目の前にある仕事をこなすことが多かった中でも、広報担当として仕事を進める中で意識が変わっていったというのはあります。一つのきっかけとなったのは、初めて自分が作った広報紙に対する住民の方の反応です。初めて作ったし、反応を聞いてみたいじゃないですか。そこで町内に住んでいた祖母の所に行ったんです。そしたら、ハエたたきに使われていました。初めて孫が作った広報紙をそんなことするかと(笑)。

他の住民の方に聞いてみても「正直あまり読んでない」という反応が多くて…ショックでしたね。なぜ読んでいないのか聞いてみると、「わかりづらいから」「特にいい情報載ってないから」という声ばかりでした。落ち込みつつも、どうしたら読んでもらえるのか、楽しんで読んでもらえるために何をしたらいいのか、それを考え始めたのが、仕事に対する意識が変わったきっかけですね。

 

自治体の広報紙などを表彰する全国広報コンクールで最優秀賞を受賞した他市の担当の方に話を聞きに行ったりして、紙面レイアウトや写真技術を磨くなど工夫を重ねて努力した結果、同コンクールで近隣自治体も含めて初めて福岡県大会で優勝、全国で入賞を果たすことができました。新聞にも取り上げられて話題になったことは、やりがいがあったな、挑戦したな、と思う部分です。その時の記事、持ってきました(笑)。

町内外で桂川町とその広報紙に注目していただけるようになったこと、PRできたことは達成感がありましたね。住民の方々からも「吉田さんが広報紙を作るようになって読みやすくなった」と言ってもらえるようになって。
退職する頃には多くの住民の方に読んでもらえるようになりましたね。

時津:それって、モチベーションとしては賞を取ったからというのが大きいんですかね?
それとも住民の人たちが読んでくれるようになったというのが大きいんですか?

吉田:両方ありますけど、どちらかというと後者の方ですね。

時津:それは、そのあとの上司の評価は変わるのでしょうか?

吉田:それはですね、、もちろんお祝いの言葉はいただきましたが、基本的には「その賞とってどうなるの?」という反応でした。広報紙作成中は夜中まで残ることも多いですし、イベントが多い休日も取材のため仕事に出たりとかあるんですが、「そんなにがんばってどうするの?」と言われちゃうんですよね。
これは、一人だけじゃなく同僚・上司問わず色々な方に言われた言葉なんですが、公務員時代で最も傷ついた・ショックだった言葉ですね。働きづめの私の体調を心配してくれての言葉ということもあるんでしょうけど…。取材に行った先では、「いつも来てくれてありがとね」といわれたり住民の方からの評価はあがりましたが、いざ自分を取り巻く職場環境の中ではそんなに評価が高かったわけではないということです。
ただ町長は認めてくれて応援してくれました。町長の後押しがなかったら、「広報紙をより読んでもらうようにする」という挑戦も実現できていなかったかも知れませんので、町長には本当に感謝していますね。

時津:じゃあ、小林市のエースは?

 

種子田:…(笑)
観光課での観光プロモーションの仕事はおもしろかったしやりがいもありました。
小林市に観光客を増やすことが目的なのですが、一番公務員の存在感というか、巻き込む力を感じたかもしれないです。僕がやってたのは、小林市にはお花畑の観光地があるんですけど、そこにお客さんを呼び込むというものでした。課題は、そこには来てくれてもそこに立ち寄るだけで観光客は帰ってしまう。近くにある温泉やリンゴ園など、他にも寄ってほしいところはいっぱいあるんです。なのに、各観光地が連携した全体的なプロモーションはしてなかったんです。そこに僕が行くと、公務員だから中立にまとめていくことができるじゃないですか。各観光地みんなで10万ずつ出しあってプロモーション打とうということになり、それを実現したんです。こういうのは、公務員起点じゃないとできないことかなと。一企業が言い出すことはできなくても、それをまとめてつなげる役割で公務員の立場を活かすことができたんです。
福岡市でも、キャッシュレスの対応とかされてると思いますが、楽天だLINEだとか、競合する企業さんでもイベントに集まってくるんですよね。あれって福岡市が旗を振らないとできないことだと思うんです。
それが行政の役割だし、いいところだと思います。ハブになれることが。

時津:なるほど、面白い。それで観光客を呼び込んで、お金が地元に落ちていくわけですよね?
それって、すごく評価に値することだと思うんだけど、それって役所側の評価はどうなるの?人事評価が上がるとか、給与が上がるとか?

種子田:組織的な評価はないですね。給料が上がることもないですし、私の時代は評価制度も開始前だったので人事考課で考慮されることもなかったです。今はありますよね?

山下:はい、評価の点数は導入されています。現場の人たちが満足できるほどではないのかもしれませんが。

種子田:直属の上司や町の人たちに「種子田君すごいね」って言って喜んでもらえることが嬉しかったですね。

時津:それは、何事にも代え難いよね。

 

ー公務員が考える自治体の課題ってどこにあると思いますか?

時津:私だったら、例えば広告枠を定価で売ることを評価する、とすると社員もそういう人が評価されるなら、という作用の仕方になり、経営のレバーとして使ったりするのですが、そういう観点からありますか?

山下:そういう意味では、先ほどお二人がおっしゃっていた飛びぬけた人が評価されない、という現象は、公務員にとって「間違いを起こさない」ということがレバーになっているのかもしれません。
そうするとお二人のようにそれを踏み越えていった人を評価する基準がないので、「こんなにがんばっているのに…」となってしまう人はいるでしょう。
それは福岡市役所でも当然、同じケースはあると思います。
たとえば私が経験してきた企業誘致などですと、自由に飛びぬける仕事もできるのですが、ルールがきっちり決まっている仕事だと、「100点取って当たり前」の世界になってしまうんですね。なので減点主義になっていく、ということはあるかもしれないです。

時津:それでいくと、民間企業はトップが変わると理念や価値観なども変わりますし、評価軸も変わると思うんです。首長さんが変わったときはどうなるんですか?

山下:首長が変わるとガラッと変わりますよ。もちろん法令の遵守、公平・公正などは大前提ですが。福岡市の場合は人口160万人を超える大都市なので、何をやっても賛成と反対はあります。なので、どこに重点を置くのかは首長によります。
高島市長は先に「都市の成長」を取り、そこで得られた果実を福祉をはじめ「生活の質の向上」に回すという発想です。それを明確に示している首長は少ないかもしれません。

時津:自治体においては、首長の影響は人事権にも及ぶと聞きました。

種子田:現実的には、一定以上のレイヤーには首長の影響も少なからずあると思います。
抜擢人事もありえますね。例えば市長に人事権がある副市長が、局長・部長レイヤーからいきなり抜擢されたケースも聞いたことがあります。

時津:副市長って、プロパーから選ぶんですね。国から迎えるのかと思っていました。

種子田:その判断も含めて市長に人事権があるようです。

吉田:私が勤めていた町では、人事権に関しては、町長が全部決めてました。100人程度の小さな組織で、首長が一人ひとりの職員をすべて把握していたので、抜擢人事も起こりやすかったですね。

時津:なるほど。吉田さんは公務員の課題についてどう考えますか?

吉田:失敗ができない、冒険ができないということに起因した改善意識のなさが、課題の1つにあると思います。公務員は法令で決められたことしか仕事ができないのが基本ですので、独自の工夫がしづらい職種ではあるんです。また現在、各分野の国や県の業務が市町村へ委託をされてきています。住民ニーズも昔より多様化していて個別対応が必要なケースも増えてきている。その結果、自治体職員一人ひとり、一つひとつの業務に時間がかかるようになっている一方で、税収や地方交付税など市町村の歳入は減ってきています。自治体は、歳入が減ると何を一番先に削るかというと、人件費を削るんですよね。住民サービスにかかる費用を削る訳にはいかないので。
その結果、市町村の規模にもよりますが一人で10~20のいろんな業務を担当しなければならなくなります。業務をこなすことに追われて、業務改善や効率化などの工夫をするどころではない、という事態になっていることが課題ではないかと思います。今後は、職員一人ひとりがコスト意識を含めた改善意識をもっていかないと、いつか業務量がパンクを起こし、場合によっては市町村の存続に関わる事態になるかも知れません。そこは、先ほど山下さんのお話にも出てきた首長の役割が大きいと思います。法令という縛りのため工夫がしづらい、業務多忙で改善を考える暇がないということから、職員から自主的に改善を発案することは困難だと思うので、首長が業務改善やコスト効率化の指針を示すことが大切かと思います。

時津:いかに生産性を上げるかといわれていますけど、今聞いた感じだと、どんどん業務負荷が上がっていく感じでしたよね?メンタル疾患など出ないのでしょうか?

吉田:あります。業務量の過多がまさにメンタル疾患の要因となることが多く、それで休職者が出ると、その人の分の業務を残った職員が受け持つことになるため、さらに業務量が増えて次のメンタル疾患者が出てくるという悪循環は、現在全国の自治体共通の事例・課題のようです。
定年前の上司によく「俺たちが若い頃は職員もたくさんいて良い時代だったけど、お前らはこれから厳しいぞ…」と冗談交じりに言われていました(笑)。

種子田:僕は、賛否は当然あると思いますが、降格人事はあったほうがいいと思っています。一回昇格してしまうと、あとから能力が足りないとわかっても下げられないんです。ポストの数が決まっているのもありますけど、能力がない人がずっとマネジメントし続けなければならないし、どちらにとっても不幸になってしまう、ということがありますね。

時津:すごいね。ベンチャー企業だと期中でも変更はありますよね。
公務員だと一回昇格したらずっと変わらないと。

種子田:基本的には不祥事以外の降格はないですね。

山下:降格という制度自体はあるのですが、それが実践されたことは私は聞いたことがないです。

時津:昔からの行政システムの中で生まれた中でのことなのでしょうけれど、時代の変化の方が早いのでオペレーションシステムの方が追い付いてないのかもしれないですね。

山下:私が以前にいたメーカー時代も、組織が大きいと降格というのはなかなかなかったですね。

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