【対談】自治体職員の仕事とキャリア ~後編~

インタビュー

左より
株式会社ホープ メディア事業部 部長 種子田宗希(元宮崎県小林市役所職員)
株式会社ホープ 代表取締役社長兼CEO 時津孝康
福岡市 経済観光文化局 経営支援課長 山下龍二郎氏
合資会社ふれあい代表社員 吉田翔平氏(元株式会社ホープ社員/元福岡県桂川町役場職員)

時津:ここで少しフランクな質問を入れてみようと思います。公務員に退職金はありますか?

山下:あります。自分で計算できるくらい、明確になっています。
勤務期間や役職によってちがいます。転職組は時間的にロスがあるので、新卒から継続勤務している人に比べたらそれほどは多くはないかもしれません。
22~60歳まで勤務したとすると、最終的なポストにもよりますが、2,000~3,000万円くらいになるのではないでしょうか。

吉田:勤続年数と最終的な給与額で計算されて、支給されますね。私の町のような小さな自治体では課長職止まりですので、高卒や新卒から定年まで勤めて2,000万円ちょっとじゃないですかね。私のように短い期間で退職した場合は、その分退職金もかなり少ないですし、在職年数によってはまったく出ないこともあります。

時津:なるほど。有給という概念はあるんですか?誰の承認が必要になりますか?

山下:あります。年休ですね。福岡市は、上司の許可があればOKです。

時津:36協定のように、労働に関する協定などもあるのでしょうか?ちなみに休暇申請は電子申請ですか?

山下:協定もあります。また、休暇申請は電子です。

吉田:私のときは完全に紙での申請でした。同僚、係長、課長に、理由を書いて決裁をもらう形でした。今でも電子申請ではないと思います。

種子田:僕も同じで紙でした。
年休は取りやすかったです。民間とは取り方がちがって、忙しくないときは、昼から休みにしてしまおうか、というパターンもあり、その日の状況で決めることもありましたね。

山下:福岡市も、休みはとりやすいです。世の中に働きやすさとか、休みの取りやすさを広めていくためにも、率先して取りやすい環境を目指しています。最近出た統計で、福岡市役所全職員の平均年休取得数は年に15~16日(年間に20日間付与)だったので、休みを取れている方だと思います。

時津:そうなんですね。次は、ボーナスについて教えてください。ボーナスは毎年必ず出るのが前提での年収計算なのですよね?

山下:そうですね。景気動向などにより、金額は変動しますが。

吉田:私の頃は季ごとのボーナス額は月給の1.95か月分ほどだったと思います。ボーナス額、正確には期末手当と勤勉手当は、人事院勧告というものを元に先ほど言った1.95か月分の部分が変動しますが、大きな変動があることはあまりありません。

時津:民間では、ボーナスは一定の割合で業績連動するのは仕方ないと思っているのですが、そういったものはないですもんね。

種子田:ただし、景気がよくなって民間の皆さんのボーナスが上がっても、公務員は一定というのがあるのでボーナスは出るという理屈になりますね。

時津:確かにね。飲み会はよくあるんですか?

山下:今はコロナ禍なので飲み会はありませんが、通常時だと歓送迎会や懇親会などちょこちょこやっています。

時津:例えば当社ならば、チームビルディングのための親睦なら一定の食事代の補助に許可を出すことはあります。そういった意味での役所からの補助はないんですね?

山下:役所から何らかのお金が支給されて飲み会に行く、というのは全くありません。自分の財布が痛まない飲み会はないです。

吉田:名刺も自分で買わないといけないですし、そういうお金が職場から、つまり税金から出ることはないですね。

時津:ちなみに飲み会は割り勘なんですか?

山下:基本割り勘です。上司が少し多く出します、くらいはありますが。

種子田:歓送迎会はきっちりやっていたイメージです。3月の定期異動が決まっているので。

時津:個人的なSNSについて、職員の方々は市役所の端末で利用できますか?

山下:福岡市の支給端末においては、システム上SNSなどはブロックされます。業務で必要な場合に、申請してブロックを解除してもらう形です。私は業務で必要なので許可してもらって使っています。

時津:WiFi環境はどうなんでしょうか?

山下:部署によります。業務上必要があれば、それに応じて課によって導入しているので、必要な場合に予算を取って導入します。

時津:そうなんですね、現役の自治体職員の方に働く環境について詳しく聞けて良かったです。
では、二人に話を戻しますが、ホープに転職したきっかけは?

吉田:直接的には田中悠太さん(株式会社ホープ メディア事業部HA×SH課)の存在が大きかったです。そもそも公務員を退職したのは、どれだけがんばっても大きな評価をされない環境では、自分の成長に限界があると感じたからです。辞めた段階では何も決めてなくて、でもそれまでの経験で自信がついていたので、自分に何ができるんだろうと考えたときに、最初に思い出したのが田中悠太さんの姿だったんですね。
まだ役場で広報担当として在職中に、「マチイロ」の走り始めのときに田中さんが営業に来られたんです。そういう営業って毎日のように来るんですよね。こんなの導入しませんか、どうですかって。そういう営業って、自分の会社の利益のために言いたいことを言うだけなので、こっちも興味なく聞いていることが多いんですが、でも田中さんは違っていて。「この『マチイロ』がいかに役場のため、住民のためになるか」ということを、目を輝かせて語ってくれたんですよ。その熱意に押されて、普通だったら時間をかけてしっかり考えて作る決裁稟議書を即日作って、「マチイロ」の申し込みについて課長まで直談判したのを覚えています。
そういったことを役場を退職した際に思い出して、ああいう社員がいるホープなら、公務員時代に達成できなかったやりがいを満たせるのではないか、自分の能力を100%発揮できるのではないか、と思ってホープを受けたんです。

時津:面接でも聞いたんですけど、いい話ですねー、何回聞いても。

吉田:実際に入社して、想像していたとおり能力を発揮でき、チームでのやりがいや達成感を得ることができ転職としては大成功でした。結局、家庭の事情で退職することになってしまいましたが…。
ホープは、自分自身を成長させることができる環境が整っている会社だと思います。営業チームに所属していた際、成果を出すため、成長するためならどんどん挑戦していいという雰囲気が同僚・上司問わず常にあり、少なくとも公務員時代に言われてきた「そんなにがんばってどうするの?」なんていう同僚・上司は一人もいませんでした。1年足らずの在職期間でしたが、驚異的なスピードで自分自身成長できたと思っています。
もちろん成長は自分自身がするものであって、他人が成長させてなんてくれません。でも成長できる環境にいるかどうかはとても大切なことで、その環境がホープにはある、それはぜひ他の組織にいる方にも知ってほしいですね。

種子田:僕の場合には、成長したいと思う中で自分のビジネススキルを測るモノサシがなかったので、転職しようと思いました。ただ、自治体は好きだったし、自治体の価値はわかっていたので、自治体を旗印にしている会社としてホープを見つけて、ベンチャーだし、福岡だし、ということで選びました。

時津:怖くなかったですか?小林市を出るの。小林のスターだったんでしょ。

種子田:そうですね、成人式で代表挨拶もしたりして(笑)。

時津:そういう成功体験を捨てて出てくるわけですよね。怖くなかったのかなと。

種子田:めちゃくちゃ怖かったので、勉強したし、学校行って努力もしてリスクを減らしました。

時津:給料は上がりましたか?ホープに入って。

山下:聞きたい!

吉田:私は変わらなかったです。人事部との面接のときに、役場時代の給料いくらでしたかと聞かれて、それがそのままという感じです。

種子田:僕は上がりました。市役所時代と同じ月額22万円でホープに入社して、そこから昇格等もあり上がっていきましたね。

時津:当社は給料上げて取るっていうのはあんまりないんですよね。ちょっと下げて入ってもらってそこから自分で上げてもらうっていう。
じゃあ、今の年収を小林市役所にいたままもらおうと思ったら?

種子田:45~50歳くらいである程度のポストにいないと…

一同:ええええ!!!

時津:ただ、うちの場合も幅があるからね。

種子田:これからもがんばります(笑)

―公務員からみたホープについて。どんな会社、どんな存在だと思いますか?

山下:時津社長のことは知ってはいました。福岡市はスタートアップを積極的に支援していることもあり、急成長している福岡発スタートアップの代表的存在という印象が強いです。
直接お話しするのは初めてですが、時津社長をはじめ社員の方の話を聞いていると、人が会社を表すなあと感じます。
若くて、勢いがあって、でもチャラついてない(笑)。
仕事柄、数十~100社程度に年間お会いしますが、応対する社員の方によって会社のカラーは全然違うように感じます。社員の方が自発的にあいさつをしてくれる明るい会社もあれば、少し暗い会社もあります。
ホープさんは、勢いもあって明るいんですが、行政を相手にしているせいか落ち着きもあるという印象です。

吉田:自治体と自治体職員の課題をピンポイントで見抜いてくれて、その課題の解決策をもってきてくれる会社だと思います。自治体自身も気づいてないような課題、それを見つけてくれて、解決策を提案してくれる会社なのかなと。
公務員時代に多くの企業の自治体向けの営業を見てきて思うんですが、多くの企業が「自社の商品やサービスを自治体に売り込めないか」という既存の商品ありきの発想が多い中で、ホープはまず自治体そのものの課題を探してそれをサービスとして創ろうとしている姿勢が貴重だし、他にない会社だなと思います。先ほどお話しした「マチイロ」もそうですし、例えば「マチレット」も、「住民に自治体サービスを周知したいけど予算がない」「自分たちで作るとクオリティが低くて読んでもらえない」という自治体の課題に対しての解決策をイチから創った結果のサービスです。『ジチタイワークス』も、「自治体向けの専門雑誌」はあっても「自治体職員向けの専門雑誌」はなかったという課題への答えとなるサービスだと思っています。
自治体や自治体職員からでは生まれづらい発想から課題を解決していくアプローチ、気づいてない課題を見つけてくれる会社だと思います。

時津:それで行くと、今度新しく作った「会 -kai-」について聞きたいです。自治体DXの流れは出てくると思うけれども、今後より使ってもらうためにはどうすればいいと思いますか?

吉田:オンライン会議ツールはZOOMを筆頭に山のようにあります。その中で「会-kai-」は後発なので、より強みをいかしていかなければいけないと思います。中でも、国産というのは強いと思います。自治体の決裁権者が50~60代で、ICTに詳しくない人も多い。そういう場合は、国産というのは安心ポイントだと思います。
ただそうはいってもそれだけでは難しいと思うので、総合的にパッケージ化していくのがよいかもしれません。例えば住民向けに導入する場合、自治体ホームページに専用ページを作ったり、周知チラシを作ったりする必要があるでしょうけど、その文言やチラシのひな型をホープが準備し提供する。つまり導入するにあたってのパッケージを自治体に提供するということです。先に述べたように、自治体の現場は日々の業務にとても忙しいので、導入にあたって必要な事項を検討する時間や実行する時間がないことが多い、というところをフォローする形でホープが提供していくのがよいかもしれないなと思います。
この部分もやはり自治体の課題を解決する、というホープの強みが生かせる部分ですね。

時津:ありがとうございます。あとで「会 -kai-」の担当者に伝えておきます。

―今後の公務員の副業についてどう思いますか?

種子田:進めたほうがいいと思うのですが、一定の制約はあるべきだと思います。地域のためになるものだけ認める、などです。人材の流出を防ぐことやスキルアップにもつながると思うので基本的には賛成です。公務員のメリットとして、異動がたくさんあっていろんな経験ができることがあるんですが、逆に言えば腰を据えて一つのことを追い続けることはできないんです。そういう人は公務員を辞めてしまう。なので、例えば地域おこしが好きなのであれば、副業で観光業界に入ってプライベートでそれを達成している、というのはいいんではないかと思います。

吉田:基本的には職務専念義務があるので、副業はしてはいけないということになっているんですが、やってもいいということになれば、ずっと役所の中にいるとそればっかりに没頭してしまって新しい視点が生まれないので、個人のスキルアップや役所全体の効率化につながる副業なら、役所が認めてもいいのではないかと思います。

山下:OKにすべきだと思っています。これまでお二人の話を聞いても思うんですが、公務員は自己肯定感、達成感が養われづらい環境だと思います。私はある程度年齢が進んでから転職しているので別の視点がありますが、新卒から市役所にいる職員は自己肯定感を持ちづらいのではないでしょうか。
公務員以外の評価軸を持つこと、というのは組織として職員として成長のためにいいことだと思います。
今は、NPOなど公益性の高いものなどは認められていますが、しっかりと報酬が伴わないと広がらないと思います。私もやりたいと思います、認められたら。

時津:私が会社作ったのは15年前なんですが、この間自治体は首長の年齢から何からずいぶん変わりました。福岡市も高島市長になってからすごく変わりましたよね。これだけ人口も増えて街並みも変わり、スタートアップ都市としての地位を確立しています。これは高島市長のリーダーシップじゃないと無理だろうなと客観的に見て思います。高島市長みたいな人材が自治体に入ってくること自体変わったと思うので、さらにここから数十年後にいくとどういう風になっていると思いますか?皆さんのご意見は。

種子田:僕は、意外と現場は行政の仕組みを考えると変えづらいかもしれないと思います。高島市長はやっぱり稀有な存在だと思います。辞めて6年経ちますが、今でも公務員時代の話が、わりと現役レベルでできちゃうんです。それだけ業界を役所の中を変えるのが難しいんだろうな、と思います。あとコロナが起きて、民間企業はすぐZOOMを入れました。でも自治体はどうするかなーという感じでしたがセキュリティの問題等もあり足踏みが多く、これだけの一大事でも変化が起こりづらい。だから変えるのに一定の時間がかかると思います。

吉田:私は、業務委託と官民連携がさらに進んでいき、自治体の業務を民間がかなりの割合でやっていく時代がくるのではないかと思っています。広報紙制作にしても、私が携わっていたころは内製でやっていましたが、3年ほど前の調査では福岡県内の市町村のうち2/3は外部のデザイン会社が作っているそうです。現在もっと割合が増えているかもしれません。要は、私がそうだったように、自治体職員が1か月かけて人件費をかけて作るよりも、業務委託して作ったほうが費用的に安いので、委託が増えているのではないでしょうか。一人ひとりの業務も多くなってきて、コスト的にも負荷が大きい、となると、じゃあ業務委託しよう、という話が必ず進んでいきます。
これは今回のコロナ禍によりさらに加速すると思っていて、自治体業務の中でも、「コロナ対策で大変な中、これって自治体職員がやる必要あるの?」という業務の見直しが進んでいくのではないでしょうか。そういう業務を少しずつ民間に委託していくという流れはあるのでは、と思います。例えば水道事業の民営化はこれから進んでいく議論として大きな事例だと思います。宮城県では2019年に水道民営化案が可決され、2022年から上水道と下水道、工業用水が民間で運営される見通しです。

山下:職員の仕事が増えている中で、わざわざ人がやらなくてもいいよね、という仕事はデジタル化し、人じゃないと対応できない仕事に職員を振り向けていく。それは福祉だったり、またその中でも選別をしたりといって、業務自体の取捨選択を進めていく必要があります。
民間委託についても今後進むと思いますが、数十年後となると、さらに一巡して、民間委託のメリット・デメリットがはっきりしているかもしれません。
数十年後でも質の高い行政サービスを行うために、何を残して何を委託する、という選別の時代になっているのではないかと思います。

時津:ありがとうございます。業務の選別が進む中で官民連携が進み、もしかしたら現在では考えつかないようなコラボレーションでビジネスが生まれる可能性もある。
例えば、公務員の副業について議論ができる時代など、ひと昔では考えられないわけですよね。でも今普通に議論が進んでいます。
そういった意味では、自治体はこれからどういう姿にも変化する可能性があるのだと思います。官民連携や自治体へのサポートを通じて、我々のビジネス機会も多分に広がっていくのではと感じることができました。
皆様、改めまして本日はありがとうございました。

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