【対談】「で?」の先まで考え抜く。
インタビュー
ファイナンスとクリエイティブ、二人が語る“職能を越える”ということ
櫻井 慎也(株式会社ホープ 社外取締役/株式会社チェンジホールディングス 執行役員 CFO室長)
平木 正剛(株式会社ホープ CCO 兼 クリエイティブ室長)
公認会計士としてキャリアをスタートし、リクルートやスタートアップなどを経て、現在はチェンジホールディングスでCFO室長を務めながら、2025年からホープの社外取締役も兼務していただいている櫻井取締役。一方、グラフィックデザイナーとしてキャリアをスタートし、ホープでデザイン組織の責任者、人事部長を経て、現在はCCO(チーフクリエイティブオフィサー)兼クリエイティブ室長を務める平木。
異なるキャリアを歩んできた二人ですが、話してみると仕事観への共通点が見えてきました。ファイナンスとクリエイティブ、それぞれの立場から経営に関わるお二人に、ざっくばらんに聞きました!
「で?」と聞かれて、仕事の意味が変わった
―――まず櫻井さんに、今の仕事のスタイルに大きく影響した経験についてお聞きできますか?
櫻井:はい。最初は監査法人で、数字をチェックする仕事を3年くらいやっていました。
でも、だんだん物足りなくなってきたんですよね。数字って、基本的には何かが起きたあとの「結果」じゃないですか。
それよりも、結果が出る前の意思決定に関わりたいと思うようになって、事業会社に移りました。
リクルートホールディングスで仕事をし始めた時に、すごく印象に残っていることがあります。
決算説明に向けて、税金が前期より増えた理由をCFOに説明する機会があったんです。「理由は二つあります。これとこれです」と説明して、僕としてはちゃんと答えたつもりだった。
そうしたら、CFOから「で?」って言われたんです。
平木:「で?」(笑)。
櫻井:そう(笑)。
「その事実を俺はどう解釈すればいいの?」「経営にとって何かメッセージはあるの?」と。
それまでの僕は、正しい数字を出して、その原因を説明するところまでが仕事だと思っていたんですよ。
でも、その数字が何を意味しているのか。そこから何を変えるべきなのか。数字を使って意思決定や実行につなげるところまで考えるのが、経営に関わる仕事なんだと。あれはすごく印象に残っています。
―――その後も、その考え方は続いているんですか?
櫻井:そうですね。
その後のスタートアップでも、「ファクトと意味合いを分けろ」ということをよく言われました。
まず「事実はこうです」と話す。そのあとに「僕は、この事実をこう解釈します」と話す。
解釈は意見なので、間違っていても構わなくて議論すればいい。でもファクトと意見が混ざってしまうと、議論自体が難しくなる。
だから僕は、「ファクトはこうです」「こう解釈しています」「だから、こうした方がいいと思います」というところまで持っていくことを、かなり意識しています。
平木:今の話を聞いて、櫻井さんが僕の仕事を面白がってくれている理由が、ちょっと分かった気がします。
前から不思議だったんですよ。櫻井さんって「ホープにCCOがいるのは面白いよね」とか、クリエイティブ室の仕事に結構興味を持ってくれるじゃないですか。
でも僕らも、実は似たことをやっているのかもしれない。情報をどう意味づけるのか。どうストーリーにするのか。そもそも「何を問題と捉えるのか」。事実を分析して終わりではなく、意思決定や変化に繋げていく。
そう考えると、戦っている場所は意外と近いのかもしれないですね。
デザイナーから人事部長へ。「大いなる大失敗」
―――平木さんも、かなり変わったキャリアですよね。
平木:そうですね。
東京で10年ほどデザイナーとして働いた後、ホープに入社しました。入社後は、デザイン組織の立ち上げや、デザイン組織の責任者を任されました。そこから「もっと経営にインパクトを与える仕事をしたい」と思うようになった時期に、人事部長のポストの話が出たんです。
なぜか、「自分ならできるだろう」と思って(笑)。
櫻井:なぜか(笑)。
平木:本当になぜか(笑)。
それで手を挙げて、人事部長になりました。
でも、やってみたら難しかった。採用のように、会社のストーリーをつくったり、見せ方を考えたりする仕事は、比較的自分の強みを使えたと思います。
一方で、評価や育成、制度、労務など、人事って本当に課題解決の領域が広いじゃないですか。その中には、何をどう考えて、どう進めればいいのか、正直分からないことも多かったんです。
今振り返ると、経営や現場が人事に何を期待しているのか、自分が十分に理解できていなかった。
だから人事のメンバーにも、うまく伝えられていなかったし、組織としてのパフォーマンスも下がってしまいました。人事のメンバーが辞めることもありましたし、最後の一年は経営や部門長からの信頼もかなり失っていたと思います。
自分の中では、「大いなる大失敗」ですね。
―――そこからクリエイティブ室につながっていくんですよね。
平木:はい。
人事を離れたあと、一度また一人のデザイナーのような状態になって。その後、社長から「CCOを任せる。クリエイティブ室もつくる」と言われて、最初は僕一人から始まりました。
ただ、最初から全社に期待されていたわけではなかったと思います。「成果が出なかったら、この組織はすぐになくなる」と思いながらやっていました。
平木:だから、いろんなところに「何かできることないですか?」って聞きに行って。
そのとき自分の中にあったのが、「相手の期待を超え続けるしかない」ということでした。
人事での反省もあったので、まず丁寧にプロセスを踏む。相手が何を求めているのかをちゃんと聞く。そのうえで期待を超える。
それを積み重ねていけば、信頼してもらえるんじゃないかと思っていました。少しずつ「平木さんに頼むとうまくいくね」と言ってもらえる仕事が増えていった感覚があります。
ファイナンスもクリエイティブも、「一歩、二歩先」で戦う
平木:櫻井さんの話を聞いていて思ったのが、仕事の捉え方が似ているんですよね。
例えば経理財務だったら、正確な数字を出すことがまず大事です。でも櫻井さんは、その一歩、二歩先まで行く。「この数字は何を意味しているのか」「じゃあ、どうするのか」まで考える。僕がクリエイティブでやりたいことも近いんです。
たとえば事業部から「チラシをつくってほしい」と依頼が来たとします。普通なら、いいチラシをつくるのがデザイナーの仕事ですよね。でも僕は「そもそも、チラシで解決できる話ですか?」って聞くんです。
櫻井:そこから(笑)。
平木:本当に解決したいことは何なのか。
話を聞いていくと、実は課題はもっと手前にあって、「届け方」じゃなく「届ける中身」から見直した方がいい、ということもある。
依頼されたものを、そのまま自分の仕事の範囲だと思わないんです。
櫻井:それは、やっぱりファクトを集めているんだと思いますよ。
僕の場合は数字から入ることが多いですけど、数字だけがファクトではない。平木さんが社長や事業責任者、社員と話して拾ってくる情報も、僕からするとファクトなんですよね。
そこから意味を抜き出して、課題を見つける。だから、使っている材料が違うだけで、やっていることは結構近いと思います。
平木:やっぱり近いですね(笑)。
クリエイティブ室が「予算」をやる理由
―――その共通点が、一番分かりやすく出ているのがホープの予算事務局の仕事なのかなと思います。「クリエイティブ室が予算に関わる」というのは、普通に聞くとかなり不思議ですよね。
櫻井:僕も、そこはすごく面白いと思っています。
経理財務が予算をつくると、どうしても「予算を組むこと」がゴールとして見えやすい。各部門から数字を集めて、正しく積み上げる。それももちろん大切です。
でも時津さんが、「予算は会社全体での壮大なコミュニケーションだ」と言っていたじゃないですか。僕は、あれはすごくいい言葉だと思ったんです。
予算って、事業側から情報を集めて、社長の意思も聞いて、それを対話しながら形にしていくものですよね。
だとすると、そのコミュニケーション自体をどう設計するかが重要になる。そこに平木さんが入るというのは、すごくユニークだと思います。
―――平木さん自身は、予算事務局に入ったときに何を考えたんですか?
平木:せっかくやるなら、数字を集めて回すだけの事務局にはしたくなくて。
まず社長や関係者に「今の予算づくり、実際どうですか?」って丁寧に聞いていったんです。
そこから本当の課題を整理して、事務局の役割や予算のつくり方自体を見直しました。
たとえば振り返りの会議も、進捗を確認して終わりじゃなくて、「じゃあ次どうする?」を考える場に変えていって。
会議の流れや資料も設計し直したら、以前より意見が出るようになったんですよね。そこはやってよかったなと思っています。
櫻井:それって、かなり経営企画に近いですよね。優秀な経営企画ならやりそうな仕事だと思います。
平木:そう言われることはあります(笑)。でも、僕自身は経営企画になりたいわけではなくて。
「この場がどうすれば機能するか」「どうすればちゃんと話せるか」「どうすれば伝わるか」。多分、入り口がちょっと違うんですよね。
櫻井:社員総会にクリエイティブ室が関わるのは、まだ想像しやすいんですよ。
でも予算みたいに、一般的なデザインのイメージからかなり遠いところまで入っている。それが面白いし、そこまで入れるのは、やっぱり経営側と事業側、両方からの信頼があるからだと思います。
「経営×クリエイティブ」とは、経営にいい変化を起こすこと
―――改めて、ここで言う「クリエイティブ」って何なんでしょう?
平木:元も子もないですけど、今日話していて思うのは、櫻井さんもすごくクリエイティブな人だなということです(笑)。
櫻井:僕がですか(笑)。
平木:自分の仕事の限界を、自分で決めていないじゃないですか。「ファイナンスはここまで」とせずに、その先に行く。
当たり前を疑って、変えようとする。そういう意味では、クリエイティブって、スキルだけじゃなくて姿勢なんじゃないかと思っています。
もちろんデザインやコピー、映像のようなアウトプットもクリエイティブです。
ただ、僕がCCOとして考えている仕事はもう少し広くて、「クリエイティブという手段で、経営や事業にインパクトを与える」ということ。
もっとシンプルに言えば、「経営や事業に、いい変化を起こす仕事」です。
だから、最終的なアウトプットがデザインでなくてもいい。プロセスのデザインでも、コミュニケーションのデザインでもいいと思っています。
櫻井:僕も今回、「デザイン経営」というものを少し見てみたんです。
外のお客さんに対するブランドやプロダクトにデザインを入れる、という話はよくありますよね。ホープの場合は、それに加えて、社内のコミュニケーションやプロセスにもクリエイティブが入っている。
経営にクリエイティブがここまで入っている会社は、僕自身はホープで初めて見ました。
平木:社員総会みたいな仕事も、僕はすごく好きなんですよ。経営が考えていることと、そこで働く人たちをどうつなぐか。ちゃんと理解したうえで「この会社で働こう」と思ってもらえる状態をどうつくるか。そういうのもクリエイティブの仕事だと思っていて。
櫻井:お祭り委員会みたいなものですね(笑)。
平木:そうです(笑)。そういうの、かなり好きです。
櫻井:ただ、今の形は簡単に真似できるものでもないと思います。
平木さんは最初から今のポジションにいたわけではない。デザインの仕事から始まって、人事も経験して、そこからまた仕事を積み重ねてきた。
社長からの信頼も、事業側からの信頼も必要なので、その積み重ねがあって成立しているんだと思います。
平木:でも、自分の中ではまだまだなんです。
信頼されて、「経営に必要な存在だ」と思ってもらえるところで、ようやくスタートラインだと思っています。
本当の意味でCCOとして経営に関わるなら、「それって本当にそうなんでしたっけ?」と、みんなが当たり前だと思っているところに問いを投げることも必要だと思う。
ちゃんと石を投げて、波紋を起こす。そこは、これから自分が超えていきたい壁ですね。
AIは「答えを出すもの」ではなく、思考を広げる相棒
―――平木さんが予算事務局のような未経験の領域に入っていけた背景には、AIの存在も大きかったんですよね。
平木:めちゃくちゃ大きいです。
感覚としては、「めちゃくちゃ優秀な顧問が、ずっと横にいる」感じです。
今、複数のプロジェクトを同時に回しているんですけど、スピードもクオリティも上げながらやれているのは、間違いなくAIがあるからです。
平木:例えば、打ち合わせの準備ですね。僕、各プロジェクトの節目になるミーティングはかなり入念に準備するんですけど、中でも一番時間をかけるのが論点の整理——「今回、何を決めるべきか」というアジェンダの設計です。そこをAIと壁打ちしながら詰めていくんですよね。
平木:あとはPJTの全体設計にもかなり使っています。「そもそも問題の本質はどこにあるのか」「原因は何か」「どう解決するか」という仮説を立てて、一つひとつ解像度を上げていく。予算事務局のときも、ヒアリングやアンケートの内容を整理しながら、そのプロセスをずっとAIとやっていました。僕自身、予算プロセスを設計した経験なんてなかったので。正直、「AIがなかったらできなかったかもしれない」と思っています。
―――櫻井さんもAIはよく使われますか?
櫻井:使いますね。
僕の場合は、まず背景となるファクトや、自分なりに考えた仮説を材料として入れる。それを構造化してもらって、そこからまた自分で考える。
誰かとディスカッションしたら、その内容をまた入れて、ブラッシュアップする。そういう使い方が多いですね。
平木:そこも結構似ていますね(笑)。
僕もAIに答えを出してほしいわけではなくて、思考の補助として使っています。
大事なのはAIに投げる前の段階で、ちゃんと人の話を聞いて、いい材料を集めること。質の悪い情報を入れても、大したものは出てこないので。
AIが使いやすくなればなるほど、逆に聞く力や、問いを立てる力のほうが重要になる気がしています。
櫻井:平木さんのAIの使い方は本当に高度ですし、私自身もAIなしの仕事は考えられないレベルで活用しています。私の場合は、業績数値や財務データなどの固いファクト材料を入力して構造化させたり、信頼できる社外アドバイザーとの深い議論の書き起こしをAIに投げ込んで、「今回の議論の本質的な論点は何か」「経営の意思決定として取り得る選択肢とリスクは何か」を徹底的に壁打ちさせています。
ただ、ここで大事な注意点があって、AIに投げる前の『インプット(問いとファクト)の質』が低かったら、返ってくる答えもゴミになっちゃう(Garbage in, Garbage out)んですよね。平木さんが素晴らしいのは、現場への丁寧なヒアリングで「生のファクト」を集めてくる人間力があるからこそ、AIから最高の示唆を引き出せる点です。AIによって専門性の壁がある程度壊れた今、人間ならではの「問いを立てる力」と「現場を巻き込む力」がますます重要になっていますね。
まだまだ挑戦の途中。CxOはゴールじゃない
―――世間一般的には「CxOや役員になったらほぼキャリアのゴール」ととらえられることもありそうですが、お二人のお話を聞いていると、CxOや役員になってからの方がさらに壁にぶつかり、貪欲に成長を求めている印象を受けます。長く情熱をもって仕事をしているお二人から、最後に、この記事を読む方、特にこれからホープで働くことを考えている方に向けてメッセージをお願いします。
平木:本当にそうで、CCOになってからのほうが、壁にぶつかっている気がします(笑)。
でもそれは、挑戦の幅が広がったからだと思っていて。その土台になっているのが、人事部長としての4年間なんです。失敗も多かったんですけど、あの経験があるから、経営の課題も事業の課題も解像度高く読めるようになったと思っていて。僕のビジネス人生にとって、とてつもなく大きな財産になっています。
そして去年は、予算事務局という自分にとってかなり遠い領域にも挑戦させてもらいました。これも大きなターニングポイントで、経営にインパクトを与えるための選択肢が一気に広がった感覚があります。
人事の経験があって、CCOという役割をもらって、AIも積極的に使ってきて、予算事務局にも飛び込んだ。普通だったら「それ、あなたの仕事ですか?」と言われそうなことばかりですけど、全部つながって今の自分があるなと思います。
櫻井:実際、肩書きが付いてからの方が『答えのない未経験の課題』に挑み、学び続けている感じです。
私自身、チェンジホールディングスでCFO室長として数々のM&Aや戦略意思決定に関わってきましたが、自分が打った手がそのまま会社の未来を左右する、という場面も多く、常にプレッシャーのもとです。でも、目に見える『解きやすい課題』を解くだけなら誰にでもできる。誰も手をつけられていない経営の聖域や、解きにくい構造的課題に対して、逃げずに「健全な問い」を投げかけ続けることこそが責務なのだと感じています。
とても挑戦しがいがあると思うので、自分こそはと思う人はぜひ、CxOポジションを目指してほしいし、むしろ平木さんのように切り拓いてほしいですね。
平木:僕、今年45歳なんですよ。CCOになったのが41歳。十分おじさんですけど(笑)、日々、新しいことに挑戦しています。
難しいです。でも、それが面白い。解くべき課題を見つけたとき、課題を解く瞬間、周囲を巻き込んで、それを実際の変化にできたとき。全部おもしろいです。自分の成長が、そのまま会社の成長につながっていく感覚を持って働けるのは、最高だなと思っています。
だから、「変化を起こしたい」と思っている人と、ぜひ一緒に働きたいですね。
櫻井:今日改めて平木さんと話してみて、入口は全然違うけれど、似ているところがたくさんありましたね。
平木:そうですね!
ファイナンスとクリエイティブで、最初は真逆だと思っていたんですけど。仕事を「ここまで」と決めずに、一歩、二歩先まで踏み込む。そこがすごく近かったなと、今日話して改めて感じました。
本日の対談、本当に楽しかったです。ありがとうございました!
櫻井:ありがとうございました。
最後に
対照的なお二人かと思いきや、対談を通して仕事への姿勢やCxOという立場に対する覚悟など、とても貴重なお話が聞けました。「で?」の先まで考え抜くお二人、共通点を見出して大いに仲良しになった模様。
今後、ホープの経営チームでの化学反応も楽しみです。
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